南仏エクサンプロバンスの街から車で1時間ほどの人里離れた森の中にこの修道院はあります。12世紀の建築でカトリックの一派シトー会という とても禁欲的で知られる宗派らしいのですが、建築にもこの考えが表れていると言われています。確かに装飾などはかなり控えめで、ごく一部にしかありません。重々しい石が空間を造り、そこに開けられた窓から射しこむ光と影が この空間を美しく演出しています。単純化された中の美をみることができます。
この建物の見どころは、聖堂部分もよいですが、なんといっても回廊ではないでしょうか。修道院の回廊は 通常は左右対称で静寂に満ちたものが多いですが、トロネの回廊は、動きを感じさせる空間となっています。それは高低差のある地形をそのまま利用したために生じていることですが、回廊の途中に階段が付き、プランも長方形ではなく、いびつにねじれた平面になっています。これが 時事刻々うつろう光と影に変化を与え、この空間に多様な表情を映し出しているように感じます。祈りの「静の空間」とうつろいの「動の空間」が混在しているのです。
この建物を舞台にした小説「粗い石」という本があります。私は実物を見た後に読んだのですが、この修道院の建設途中の壮絶な現場の様子が 主人公の修道士でもある現場指揮官の苦悩とともに描かれており、実際にみた光景が鮮明に浮かび上がり、泣けてきました。読む前でも十分感動しましたが、訪れる前にこの本を読んでいたら、実物は更に感動的だったかもしれません。